グローバルとローカルの最適バランスを地方創生に

2025/04/07 18:18

河上龍太郎氏の「日本経済の死角」は、日本企業による収奪的システムが、日本経済停滞の底流にあることを分かりやすく提示している。
 それをヒントに経済にとって最も健全な姿はどういうものなのかを考えてみた。
 それは、普通の市民が社会に必要とされる仕事について、一般的に幸福を実現出来る収入を得て、その消費(需要)によって経済がスパイラル的にバランス良く成長していくという姿ではないだろうか。
 では、そのようなシンプルなローカル経済循環を打ち壊し、アンバランスにしている力は何なのか。
 最大の要因は、大量の資本と安価な労働力から生み出されるコントロールできない供給サイドの暴走が考えられるだろう。中国の鉄鋼や太陽光パネル、電気自動車は最近のシェア至上型の最たるものであるが、日本にしても為替レートの固定による極端な円安と豊富で安い労働力で世界市場を席巻していた。アメリカにしたところで、賃金こそ低くないものの、小麦や牛肉などの大規模化と機械化による圧倒的なコスト競争力を持って世界で高いシェアを取ってきたし、最近ではこれにIT関連企業のソフトウェア、ハードウェアによる支配が広がっている。ある国やサプライヤーが圧倒的シェアを取れば、世界各国のローカル経済圏に点在していた地域企業は崩壊していく。結局世界的規模や政策的な資本の集中投下によってもたらされたいびつなグローバル経済が、ローカルのエコノミーとコミュニティも破壊し、駆逐していっている。もちろんそのような大量生産システムによって安くて良質なものが手に入れやすくなることで、市民生活全体が物質的には満たされていく面もあるが、グローバルの水平展開によって均質的な個性のない街・生活スタイルが大量生産されている。そしてその弊害を最も受けているのが日本ではないか。日本は今や自動車産業以外で世界的シェアを取れるのは、生産のための生産機械などサプライチェーンの上流のみで、利益を享受できるマス市場では、ことごとく敗北している。その結果、国内に投資すべき対象を見つけられず、真面目に働いて、積み上げた貯蓄ををわざわざ海外に環流させている。
 金融、海運、不動産など海外企業のシェア争奪戦に巻き込まれにくい業種では賃金も高く、それが故優秀な人材を引き寄せている。しかし、日本の労働人口の大半を占めるのは、比較的賃金の安い飲食、サービス、観光などの地域生活分野である。ローカルで小規模な企業ほど海外の圧倒的な生産力に対抗できず、地方都市の産業基盤が崩壊していっている。
 家電製品、車、衣料品、医薬品といった高度な生産力を前提とする消費財は地方経済からは切り離せないが、食料、飲食、エネルギー、住宅といった地産地消型の経済圏を形成し、これに観光や付加価値が高く、国際的にも独自性のある地元商材を生み出すことによってクローズドの部分と外部にコネクトするオープンなネットワークが両立する地域モデルは作れないものだろうか。地域創生の単年度型予算が単にイベント的プロジェクトで、消失させてしまうのではなく、地域ごとの特性に合った自立型経済圏の形成といった戦略ビジョンが提示され、地域毎に戦術的な個性のある地域ビジョンが複層的に積み重なることで、均質化ではなく、個性化による地域形成が行われることが、収奪的日本システムからの脱却方法ではないだろうか。
 グローバル化と均質化が行き過ぎた結果に対する対応策がトランプ型の保護主義だとしたら、日本もそれを旨く取り入れて守られながらも世界につながる地域づくりに励んでみてはどうだろうか。


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